「出版禁止 いやしの村滞在記」 長江 俊和
各所に伏線がちりばめられた、テクニカルなミステリ。
要所要所でグロテスク。
ネタばれあります。
作品自体は、私の好みではありません。
物語は、主人公の高校時代の「一見」淡い恋愛が起点になっていますが
恋愛要素は物語の起点(正確に言うと起点ですらなく単なる一要素)にすぎません。
今回なぜ私がブログで取り上げたかというと、読書中にちょっとした不思議な現象があったからです。
この本を読んでいた今年の6月ごろ、私が好きなアイドルグループ「つばきファクトリー」が新曲「弱さじゃないよ、恋は」を発表しました。
つばきファクトリーは曲が良くて、毎回新曲を楽しみにしているのですが、一つの魅力として可憐さがあります。
その新曲「弱さ~」もその例外ではなく、昨年加入した新メンバー「河西 結心」さんが冒頭や落ちサビのいいところを任せられるのですが、彼女の表現力はなかなかのもので、この曲でも存分に発揮されています。
先述の不思議な現象に戻ります。
実は主人公は「彼女」に利用されていて、高校時代の恋愛は彼女の生い立ち、一族にもかかわるイベントに利用された作為的なフェイクだったのです。
主人公はその後、彼女の一族により悲劇的な、残酷な最期を迎えてしまうのですが、
本心では彼女は主人公に本当に恋をしていました。
彼女は泣く泣く主人公を殺めたわけです。
奇妙な一族の風習をモチーフとする荒唐無稽な話といっていいでしょう。
ですが、当時この本を読んでいた私は、ずっと想い続けていた彼女に殺められた主人公は
ある種幸せな最期を迎えたのではないかと錯覚してしまったのです。
そうです。
同時期に聴いていたつばきファクトリーの「弱さ~」で表現される可憐さ、甘さが、全く無関係のこの本に転移してしまったのです。
繰り返しますが、この本で恋愛は単なる起点にすぎず、作品自体ミステリです。
作中の彼女は主人公の殺害当時、既に別の男性と結婚していたのですが、
その男性は彼女が主人公を想い続けるさまを見て「嫉妬した」といいます。
私はその描写に救われた気がしました。
その救いは「弱さ~」がもたらしてくれたもので、「弱さ~」を同時期に聴いていなければ
本作品は単なるグロテスクな作品、という印象に終わったかもしれません。
冒頭で「作品自体は好みではない」と書きましたが、この不思議な現象により、
この作品が、ちょっとした甘美な作品として私の心の中に記録されました。