T君のこと ①

時々ふと、T君のことを思い出します。

T君は、私が大学に入って初めてできた友人です。

私は、歩くときにぼんやり考えごとをするくせがあるのですが、入学間もないその日、大学の校舎階段を上がろうとするときに階段の上から一人の学生が降りてくるのを見ました。

長めの髪を真ん中分けにして、今思うとソウル・フラワー・ユニオン中川敬さんみたいな感じです。当時の私は彼を見て、「落武者」、「オタク」そんな印象を一瞬でいだきました。

「今すれ違った落武者でオタクみたいな人と今後二度とすれ違うことなんてないんだろうな」そんなどうでもいいことを思い大学の新生活は始まりました。


大学に入ったら音楽を思い切りやりたい、と考えていた私は音楽系のサークルに入りました。

ところがそのサークルはいわゆる軽音楽部で、私のような打ち込み、DTMがやりたい人にとっては合う環境とは言えず、いわゆるノリも全く合いませんでした。
その中で、一人の先輩(小西康陽さんに似ているので小西さんと呼ぶことにします)と話す機会がありました。

小西さんは「こないだサークルに入った人で、打ち込みをやっていてすごい実力を持ってるやつがいる。もうポップスなんかではなく現代音楽を作っている。」という情報を教えてくれました。

私は、(今もそうですが)YMO電気グルーブがアイドルで、所謂ギター・ベース・ドラム、というロックバンドのスタイルを当時毛嫌いしていました。
手で演奏することで、ズレることが許せなかったんです。
(今はその「ズレ」こそが音楽的だと思うし、全く偏見はありません。)

そんな私は、がぜんその「打ち込みで現代音楽の彼」に興味を持ち、その彼となら、YMO電気グルーブみたいな3人組のバンドがつくれる!
と直感を抱きました。ちなみにもう一人はI 君という高校時代の同級生で、彼のこともいずれ別の記事として書いてみたいと思います。

そして、数日後、サークル全体の集まりで私は「打ち込みで現代音楽の彼」に無事出会うことができました。

そうです、「打ち込みで現代音楽の彼」はあの日私がぼんやりと「二度とすれ違うことはない」と夢想した彼、つまりT君だったのです。
私は心の中で「おいおい、落ち武者でオタクのあいつかよ」とつぶやいたのは言うまでもありません。

極度の人見知りの私ですが、その集まりの後、思い切ってT君に話しかけました。
私「打ち込みやってるんだって?俺もやってるんだ。」
T君「そうなの?どんな機材で?」

私とT君は意気投合、というほどの親密さはないものの当社比ではかなり仲良くなったつもりです。

その日家に帰って私はI君に電話しました。
私「打ち込みをやってるなんだかすごい奴に出合った!落武者でオタクみたいなやつなんだ!」
I君「・・・、見つかったね。」

今思えばこのI君のセリフ辻仁成中山美穂みたいで最高!

これが私とT君(とI君)の出会いです。


続きます。