できません ①

「できません。」

 

 

それは、以前職場で聞いた発言です。

 

発言の主は、私の隣の席の女性社員で、当時の私の部下です。

 

 

他の職場と比べてどうかはわかりませんが、慌ただしい職場です。

 

苦情の電話もひっきりなし、取り扱う書類、データも多岐に渡ります。

 

そして、当然のように人事異動があります。

 

会社の人事異動というと、多少の違いはあれど、大体2、3年ごとに行われるかと思います。したがって、係長、係員で構成される「係」は、係長と係員が1年おきに人事異動することでメンバーチェンジしていきます。

 

冒頭の発言は、私がとある係の係長としての2年目、つまりは部下の女性係員が1年目だった時に出たものです。

 

 

この、「係長・係員1年おき異動方式」のもとでは、当然ある係長・係員の役割分担を超えて、「2年目の方」の負担がどうしても多くなりがちで、「1年目の方」は「2年目の方」におんぶにだっこになりがちです。

 

それはある種仕方がないことで、私も1年目の時は、先に1年経験していた別の部下の女性に大変お世話になり、いまだに頭が上がりません。

 

そんな中、係長としての1年を過ごして、係の体制が整備されていない弊害を感じた私は次に異動してくる係員、さらには私の後任の係長のことも考えマニュアルの作成に取り掛かりました。

 

そして、まだまだ改善しきれない状態ではあったもののそれなりに整備が進む中、件の部下(Iさんとしましょう)を係員として迎えました。

 

問題の発言に移る前に、状況の説明を追加します。

 

私が勤務する会社は、2つの団体が統合されてできました。

2つの団体をA・Bとします。

すると、よくあることだと思いますが、A・B間での人事交流が行われます。

私が所属するAに、Bに所属するIさんが人事交流でやってきた、という状況です。

 

BからやってきたIさんは、小柄なおとなしい女性で、謙虚な人だなというのが私の第一印象です。

 

当然のことながら、人事交流で普段の異動よりも不安を抱えているだろうことはわかりましたので、最初は彼女の担当を肩代わりしつつ、より丁寧に彼女に仕事を教えていきました。

 

そして、多少の紆余曲折はあったもののそれなりにIさんともうまくやりながら半年ほどが過ぎました。

 

その頃に私が考えていたのは、いつまでも私が仕事を抱えるのではなく、異動、そして気恥ずかしいですがIさんの成長のためにも本来の役割分担に戻すということでした。

私はIさんに気を遣って肩代わりしていた仕事を本来の担当であるIさんにお返しすべく、Iさんに声をかけました。

 

私「Iさん、ちょっといい?」

 

 

 

Iさん「できません。」

 

 

 

私「・・・。(でも虫の居所が悪いときもあるか。)じゃあ、落ち着いたら声かけてね。」

 

 

 

Iさん「できません。」

 

 

 

冒頭の発言の経緯はこんな感じです。

言葉を失いました。

 

 

仕事において、職場において、上司に呼ばれてその返事が「できません」・・・。

しかもまだ何も聞いていない段階・・・。

 

 

その後また別の日もIさんは私が仕事を頼もうと話しかけると、同じく「できません」の一点張りでした。

 

さすがに2回目の「できません」発言のときはムッとしましたが、耐えました。冷静に「今後を見据えて仕事を手伝ってほしい」という旨を伝えました。

 

しかしIさんは聞く耳を持ちませんでした。

 

 

 

ささいなことです。

 

世間知らずの小娘が甘ったれたことを言っているだけです。

ですが私にはそのささいなこと、甘えが許せませんでした。

 

しかしもっと許せないのは、そのささいなことで感情的になってしまうことです。

 

そういう意味では、感情的にならず冷静に意図を説明できた自分は少しだけよくやりました。

 

 

 

その2回目の「できません」発言の日の帰り道、私は歩けなくなりました。

 

駅から歩いて5分ほどの我が家まで、1時間以上かかりました。

 

感情的な面では自分をコントロールできましたが、つまらないことで頑固な私は自分の体をコントロールできず、かねてから患っていた自律神経失調症が急激に悪化したのです。

 

 

その翌日、自律神経失調症、いえ、恥ずかしながらショックで起き上がれなかった私は一日だけ仕事を休みました。

 

 

 

つづく