他人の夢に厳しい男 (前編)

大学の時、とある英語の授業で隣り合った男に話しかけられた。

 

Wとしよう。

 

Wは私とは違う学部で、会うのはその授業が初めてだった。

 

Wは人見知りなどしない性格のようで、私に話しかけてきてそれなりに会話できたのが何よりの証拠だ。

また、彼は服装などもおしゃれで、今思えばそれなりに「モテた」のではないかと思う。

 

聞けば彼はCGなどに興味があり、自作のPCでCG作品を作ったりしているという。

 

私は初対面の緊張もありしどろもどろながら、「自分は作曲をしている」ということをWに話した。

Wは「へえ、じゃあ来週のこの授業の時に持ってきて聴かせてよ」と言った。

私はこの会話の流れはよく目にするので「わかった。来週持ってくるよ。」といいつつも、これはあくまで会話の流れで、社交辞令と受け取った。

それに私は他人の重荷になることが嫌いだし、自分の大事にしている部分に入られるのがもっと嫌いなので、Wの言葉を真に受けなかった。

 

 

真には受けなかった。

 

 

一週間後、件の英語の授業でWと再会した。

授業終了後、Wはまさかの言葉を口にした。

「持ってきた?」

 

私はびっくりして思わず聞き返した。

「え?何を?」

 

Wはつまらなそうに「持ってきてないか・・・。」とつぶやいた。

 

私は意を決した。

 

「曲なら持ってきたよ。」

 

そう、私は半信半疑ながらも携帯プレーヤーに曲を入れて英語の授業に臨んでいたのだ。

 

Wはびっくりしつつも早速イヤフォンで曲を聴いてくれた。

ひどいミックスの曲だったので、クラッシュシンバルがジャーン!となるタイミングでWの体がビクッと揺れた光景を覚えている。

 

曲自体をWは褒めることはなかった。

だがとてもうれしそうだったことも覚えている。

 

余談だが、その光景を目にした授業を終えたばかりの外国人教師が私たちのところにやってきて「何を聴いているんだい?」と私たちに尋ねた。

たしかWは「his music!」と答えた気がする。

教師は「oh!」とかなんとか言って、これもまた楽しそうな笑顔を浮かべていた気がする。

 

 

そうやって私はWと親しくなった。

 

 

秋の大学祭では、小さな教室を1室借りて、WがCGで作った作品を展示し、私は音楽を作ってそこで流した。行動力のない私からしたら、作品を発表する機会をもたらしてくれたことはWに感謝しなければならない。

 

私たちはたまに会っては、Wは私に音楽をちゃんと作っているか聞かれ、ちゃんと作っていることを知るととてもうれしそうだった。

 

Wは周りに流されないタイプで、いわゆる自分の意志、というものをしっかりと持って、それを行動に移す強さを持っていた。

認めたくないが、自分にはないものを持つWに、私は知らず知らずの間に憧れていたのかもしれない。

今の私は海外一人旅が好きだが、よくよく考えたらこれはWの影響かもしれない。