小さいころから野球が好きだった。
父とよくキャッチボールをしていた。
プロ野球中継もよく見ていたので、自然ときれいな投球フォームが身についた。
考え込む性格だった。
ボールはなぜまっすぐ飛んでいくのだろう、どのタイミングでリリースすればベストなんだろう。
考え込んだ次の瞬間、私はボールを投げられなくなった。
子どものころの話だが、今に至るまで私はボールをまっすく投げることができない。
部屋の中でリンゴをかじる。
かじる前にベッドに積まれたふとんに向かってリンゴを投げる。
もちろんまっすぐ投げることはできない。
リンゴは壁を直撃する。
つぶれたリンゴをかじりながら、私は二度とボールをまっすぐ投げることはできないんだと、絶望する。