特定の人に強くあたるユウジ君という子供がいました。
ユウジ君は学業に執念を燃やす子供で、クラスで何位、偏差値いくつ、とかそういったことに執着する、いわばよくいるつまらない子供でした。
そして私は気が弱い子どもでした。
もうお気づきでしょう。
ユウジ君は気が弱い、ですが少しばかり成績の良い私につらくあたりました。
正直言って私はユウジ君は眼中にはなく、単なる近所の乱暴者という認識でしたのであまり関わらないようにしていました。
そんなある日。
ユウジ君が私の家に遊びに来ました。
無論私をいじめてストレス解消するためにやってきたにすぎません。
そしてユウジ君はみつけたのです。
祖父が私に買ってくれたラジコンカーを。
嫌な予感は的中します。
ユウジ君はラジコンカーを外で走らせようと言いました。
ものを大事にする私です。
家の廊下で走らせればそれで十分なのです。
ですが気の弱い私はそれを断ることができませんでした。
ユウジ君は悪魔的な表情でラジコンカーを操作します。
そして。
ユウジ君が走らせるラジコンカーはあえなく側溝に落ちていきました。
そしてユウジ君は恍惚の表情を浮かべ帰っていきました。
私は側溝から水浸しになったラジコンカーを拾い上げました。
ラジコンカーは動きません。
私はただただ茫然とします。
あまりに茫然として、その時の記憶は定かなものではありません。
ですが泣いていたのでしょう。
茶の間でその光景を見ていた祖父は、いつものとおりゆっくりタバコを吸いながら、「こうすると治るよ」と言ってラジコンカーをこたつの中に入れました。
30分後。
水分が取り除かれたラジコンカーは元のとおり動き出しました。
ごく最近です。
私はふとこの話を思い出したのですが、あの時の妙に腑に落ちない気持ちの正体に気づきました。
あの恍惚の表情。
そうです。
ユウジ君は操作ミスではなく、「わざと」私のラジコンカーを側溝に落としたのです。
あの広い田舎の道路で、いかに初心者でもラジコンカーを側溝に落とすほうが難しいのです。
歳を重ね、様々な悪意に触れてきた今ならわかります。
ユウジ君はわざと落としたのです。
優しい祖父はすでに亡くなりました。
そして地元を離れた私はユウジ君とも会っていません。
ユウジ君は、あれから何台のラジコンカーを側溝に落としたのでしょうか。
そして、何度あの恍惚の表情を浮かべたのでしょうか。