ものまね芸人の神奈月さん。
神奈月さんのレパートリーは数多に上りますが、私にとってはやはり武藤敬司さんのものまねが最も印象的です。
皆さんも絵が浮かぶでしょう、スキンヘッドの被り物をして「ィイヤー!」とうなりながら指を微妙に曲げて構えるあのポーズ。あれは「プロレスloveポーズ」などと呼ばれて、武藤さんが見栄を切るときにするアイコニックな動きです。
そのプロレスloveポーズ。
私は子どものころから武藤さんのプロレスを見てきました。
プロレスloveポーズをするようになった過程も、そしてそれを神奈月さんが自らのレパートリーに取り入れていく過程も見てきました。
ですが、神奈月さんのプロレスloveポーズを見ていて疑問がありました。
動きはデフォルメしつつも完璧です。
ですが。
実際は武藤さん本人は「ィイヤー!」なんて言わないのです。
そこが気になり私は、神奈月さんは好きですが、神奈月さんの武藤さんのものまねには引っかかりを覚えていました。
ですがある日。
バラエティー番組に出演する武藤さんを見ました。
もうお気づきでしょう。
武藤さんは司会に紹介されるときに「武藤敬司です。ィイヤー!」と言って、あのプロレスloveポーズを行ったのです。
そうです。
武藤さん自ら神奈月さんに寄せていったのです。
要するに、勘のいい武藤さんは「ィイヤー!」を付けたほうがプロレスloveポーズが自らをアイコニックに表現してくれることに気づいたのです。
このエピソードは、ものまねされる本家を自分の方に引き寄せた神奈月さんもすごいし、そこに乗っかって自らをわかりやすく表現する手段を選択した武藤さんどちらもすごいことを示しています。
武藤さんと言えば、後年の必殺技「シャイニングウィザード」があります。
片膝立ちした相手の膝を踏み台にして顔面蹴りをするという、誰も思いつかなかった動き、それでいて説得力抜群の天才的な技です。
シャイニングウィザードはあっという間にプロレス界に広まり、数多のレスラーが真似を始めました。
ですが、本家はいまだ以て誰も超えられていません。それどころか武藤さんは、持ち前の柔軟な発想もあり正調のシャイニングウィザードからいろいろなバリエーションを生み出しその天才性をいかんなく発揮しました。単なる動きだけでなく発想、一瞬の閃きまでもが天才なのです。
話は武藤さんと神奈月さんに戻ります。
近年は二人セットで営業に呼ばれることも多いようで、当然神奈月さんは武藤さんのものまねをして場を盛り上げます。
ですが、先述のとおり神奈月さんには武藤さんだけでなくレパートリーが無数にあります。
例えば、長州力さんや前田日明さんのものまねをしているときは、武藤さんも武藤さん本人としてその芸に入っていくことができます。
では、神奈月さんがプロレスに関係のないものまねをするとき。
例えば神奈月さんの代表作の井上陽水さんのものまねをするとき。
普通なら、武藤さんの存在は宙に浮いてしまいます。
では武藤さんはそこでどうするのか。
武藤さんは素の自分で
「どうですか?井上陽水さん。」
と、いわゆるフリをするのです。
そして神奈月さんは何事もなかったかのように「お元気ですか~。」ともはや似ているのかいないのかもわからない、でも井上陽水としか言いようのないものまねを繰り広げるのです。
誰もが真似をしようとしたプロレスの天才、そして本家が自らに寄せてきたものまねの異才。
そんな二人がそこにはいるのです。