前編から続きます。
子どもだった私はさらに野球に、野球中継に魅了されていきます。
ビジュアルの次はその解説内容に魅了されたのです。
ピッチャーがバッターの内角にデッドボールすれすれのシュートを投げます。
それを何球か続け、ファールを誘いツーストライクまで追い込みます。
決め球は、外角へのスライダーです。
内角に意識を奪われたバッターは、外角に曲がっていく高速スライダーに対応できずあえなく三振を喫します。
私はそのロジカルな考え方に魅了されたのです。
さらに私は解説を聴き続けます。
別の場面。
バッターは外角のスライダーにピクリとも反応しません。
ピッチャーは、バッターの狙いは内角のストレートだと読みます。
当然ピッチャーは内角の選択肢を捨て、再度外角にスライダーを投げます。
ボールは若干甘め、内寄りに入ります。
そしてバッターは一振り、ホームランを飛ばします。
そうです。
バッターは最初から外角甘めのスライダーを狙っていたのです。
このような駆け引きの論理的な解説がとても魅力的に感じたのです。
話は横道にそれます。
私は子供のころ卓球をしていました。
運動神経が極端に悪い私はお世辞にも一向にうまくなることはありませんでした。
ですが、私はそこそこ勝つことができました。
それはなぜか。
卓球は回転のスポーツです。
そして、特に下のカテゴリーであればあるほど回転がものを言います。
どういうことか。
卓球においては、相手がボールにかけた回転に合わせてラケットに角度をつけて打ち返さないと、ボールは相手のコートに入りません。
バックスピンがかけられたボールなら、ラケットを上向きにして打ち返さないと、ボールはコトン、と自らのコートに落ちて前に飛びません。
逆にドライブ回転、つまりは前向きの回転のボールならラケットを下向きにして打ち返さないと、ボールははるか上空のあらぬ方向へ飛んで行ってしまうのです。
そして卓球の試合は交互にサーブを行います。
もうお気づきでしょう。
私は自らのサーブゲームでかなりの確率で点を取ったのです。
もちろん豪快なスマッシュで点を取ったわけではありません。
サーブ「だけで」点を取ったのです。
つまりこういうことです。
私は最初、強烈なバックスピンのサーブを出します。
このサーブゲームはとれなくても構いません。
ポイントは次のサーブです。
全く同じフォームでドライブ回転のサーブを出します。
前ゲームのバックスピンの残像が頭にある対戦相手は私のサーブをレシーブすることができず、ボールはあらぬ方向に飛んでいきます。
そうなればこっちのもので、同じフォームで上下の回転を使い分けてサーブを出していき、時には無回転のロングサーブを交えたりすれば、下のカテゴリーの選手はレシーブすることができないのです。
これはもちろん左右の回転のコンビネーションでも同じことが言えます。
そうやって自らのサービスゲームを取り続ければ、理論上、相手のサービスゲームを一本取りさえすれば負けることはないのです。
そうです。
わたしはこの「サーブの駆け引き」を野球中継から学んだのです。
話は野球、野球中継に戻ります。
つづく