「バッド・コップ・スクワッド」 木内 一裕

世間的には、例えば直近で取り上げた大沢在昌ほどには知られていないのではないかと思われる、しかし、マンガ「ビー・バップ・ハイスクール」の作者としてお馴染みの作家の最新作です。

 

ネタバレがあります。

 

私は作家のことは、Amazonのオススメか何かで知りました。

あまり期待しないで読み始めたのですが、今も続く矢能シリーズは疾走感なども感じられ、結構好きで読み続けています。

 

力がある作家なんだろうと思います。

シチュエーションの設定、展開力など図抜けたものがあり、本作も例外ではありません。

 

本作は、やり手の警察官菊島と、犯人との人質解放をめぐる駆け引きを中心に展開されます。直接的な暴力ではなく、知的な駆け引きで話を展開させる試みは大いに評価できます。

ただ、本作については、いささか犯人がのんきすぎます。一度は菊島に苦汁をなめさせられておきながら、次の交渉の場面でも同じように菊島を信じ切った交渉。これは都合が良すぎる印象を受けました。

エンディングもとっ散らかって尻切れで終わった感が否めません。

 

また、作家のよく用いる表現で気になるものがあります。

それは、セリフに「?」や「!?」が多すぎることです。これらの多用により、作品が拙く写ってしまうのです。ともすれば「マンガじゃないんだから」と批判を受けかねません。確かな実力があるのにもったいない。

「な、なぜだ」、「そ、そんなことはない」というように焦りを「ひらがなの頭文字プラス読点」で表現する拙さについては以下の記事でも書きました。

 

 

この表現を拙さを感じさせず使えたら大したものですが、本作からそれを感じ取ることはできません。

 

そんな中で私が最も気になる表現は「あ?」です。

読んで字のとおりなのですが、作家のあらゆる作品のあらゆる登場人物の聞き返す際の表現が、「あ?」なのです。これはいただけない。ステレオタイプのチーマーですかと言いたくなります。せめて「え?」にしてほしい。

 

確かな実力を感じるのですが、こういった気になる表現で内容に入り込めない、惜しい作家の惜しい作品ということになると思います。

 

 

 

「黒石 新宿鮫Ⅻ」 大沢 在昌

映画化、ドラマ化された人気シリーズの最新作です。

 

ネタバレがあります。

 

以前、他の本について感想を書いたときに私は、本シリーズを高く評価する旨を書きました。

 

 

シリーズ開始当初は、主人公の鮫島の描写がどうも中途半端な印象を受けました。起きる事件も、だから?と思ってしまうような内容ばかり。

おそらく作家がおしゃれに描きたかったであろう、鮫島とその恋人の晶(しょう)との会話も上滑りで、作品の流れを止めるのみ。そもそも晶の言葉遣いが悪すぎて、会話が不愉快なんです。

 

そんな同シリーズですが、回を重ねるごとに作家の成長とともに鮫島も成長していき、作品も成熟していった、というのが評価の内容です。

 

本作はシリーズ第12作ですが、晶は第10作でフェイドアウトしました。推測になりますが、作家は晶をうまく描く自信がなかったのではないかと私はふんでいます。

もしうまく描けていたと思っていたとしたら、残念ながらその魅力は私には伝わりませんでした。

代わりに大きく魅力を放ったのが鮫島の上司である課長の桃井です。

グータラなように見えてやるときはやるという、ハードボイルドを地で行くようなキャラクターで、鮫島も慕っていたし、何より作家が信頼しているのがよくわかりました。

ですが、その桃井も晶同様第10作で降板。こちらは殉職でしたので万にひとつも再登場する可能性はありません。

 

前置きが長くなりましたが、その晶も桃井も消えた新体制第二弾とも言える本作、つまらなかったですね。

近年の本シリーズの充実ぶりもどこへやら、読むのが苦痛でした。

作品は、ありがちですが、鮫島目線と犯人目線が交互に繰り返されて進行します。が、その犯人目線のパートが子供だましレベルです。犯人は自らを「ヒーロー」、そして殺戮の対象を「毒虫」と呼び、来るべき襲撃に備えるのですが、その「ヒーロー」、「毒虫」という言葉のセンス・・・。40年遅れくらいではないでしょうか。そこに目をつぶったとしても起きる事件が凡庸だし、ラスボスたる徐福の狙いもはっきりせず中途半端。

「ヒーロー」君の襲撃にしても、とても用心深いと自認するわりには普通に監視カメラに引っかかるんじゃないの、とこちらが心配になるほどごく普通。金石、八石という悪の集団を描いたまではいいのですが、それぞれがキャラが立っておらず区別しづらい。

ヒーロー君がボスを盲信する理由も全く描かれていないし全てが中途半端。

おまけに、本作でいただけないのが、本作は微妙に前作の続きとなっており、前作の内容を覚えていないとしっくりこない部分があるところです。前作の続き要素は程々にしないとこの手の長いシリーズは読みづらいんですよ。

かと言って前作をわざわざ読み返したくなるほどの引力はこの作品には、なし。

結末も、ラスボスが捕まった、ただそれだけ。余韻、のりしろ等も何もなく、考えさせるようなものもなし。

 

唯一良かった点としては、引き続き主人公である鮫島が人間的な成長を見せているところです。部下の矢崎、同僚の藪、そして上司の阿坂に対して見せる気遣いなどは、シリーズ序盤では見られなかったものです。

 

今作は成長著しい鮫島が出会ったつまらないエピソード、インタールードと捉えます。きっと次作は、事件、ひいては作品自体の成熟具合を見せてくれるはずです。

スターとサプリ

先日、身内に不幸があった話を短い投稿で書きました。

 

当然少なからぬダメージはあります。

 

投稿後、同投稿に見慣れた方たちがスターをつけてくださっていることに気づきました。

 

私にはそれが、「気を落とさないでね」というメッセージに見えました。

 

ありがとうございました。

 

スターという形ではなくてもお読みいただいた方もありがとうございます。

 

正直言って、落ち込み、そして今後のプレッシャーがあります。ちっぽけな私にはなかなか耐え難いものです。

寒さも相まってか風邪までひいてしまって…。

そんなときのスターやアクセスはどんなサプリよりも栄養になります。

 

あらためてありがとうございました。

 

いろいろな催事は、開けて今日からが本番。

ですが、さみしい投稿はこれで終わりです。

次からはまたいつもどおり、読書、音楽、旅、日常のことを書きます。

 

今度は私の投稿が、どこかで落ち込んでいる方の栄養になりますように。

 

痛感、旅、てん末

身内に急な不幸があり、帰省します。

 

ということで年末の旅は中止です。

 

月並みですが、旅をはじめ趣味、仕事、恋愛、喜怒哀楽・・・。

全て健康あってのことです。

 

そんなことを再認識しつつ、故人のご冥福をお祈りします。

「連鎖」 黒川 博行

ここ何年かの間で、私の好きな作家のトップ3に常にランクインしている作家の最新作になります。

ネタバレがあります。

 

作家の近作で度々主役を張る上坂刑事が登場する作品ということで、シリーズものと言っていいでしょう。

当然私も好きなシリーズで、確実に及第点を取ってくるであろうという期待で読みました。

ところが、率直な感想としては作家の作品にしては物足りなかった、というものになります。

 

その理由を考えてみます。

 

まずは何と言っても、核となる事件の犯人に、作中序盤で早々に接触してしまっていることがあります。

そしてその犯人はラスボスたる深みがなく、恐怖、威圧感等を感じさせるものがありませんでした。

また、その核となる事件には過去の類似の事件が結びついているのですが、その事件も凡庸で、それだったら結びつけずにシンプルにまとめた方がよかったのでは、といった印象を抱かせるものでした。

同じく上坂刑事が活躍する、大作「落英」では、図らずも一つの事件から世間を揺るがした大事件へ展開していったのですが、その流れがすっと入ってきてワクワクしながら読めました。

それに比べると本作は中途半端な印象が拭えません。

 

また、作家の作品はある種のロードムービーの様に場所を転々としながら真実に近づいていくというものが多いですが、本作は、その流れを汲みながらも臨場感に欠けるというか、焦点が定まらない感があります。

モチーフとなっているのがセルフカバーとも言える「後妻業の女」ということで、悪女をどう描くかというハードルが高くなっていたことも物足りなく感じた理由の一つでしょう。

 

とは言え、どんなに作家に実力があっても「落英」の完成度のようなミラクルはそうそう起きるものではありません。

 

作家の特徴、得意技である、主人公二人の軽妙な会話は相変わらずで、もはや名人芸と言っていいでしょう。

そして、単なる甘ったるさではない人間味を感じさせる描写は群を抜いています。

 

次なる作品は、きっと留飲を下すものとなること間違いなしと思っています。