そうして私の大学生活は、作曲、T君、I君、時に(T君曰く天才の)C君とともに過ぎていきました。
余談ですが、T君は酒好きで、ポケットと背中のリュックに酒を持ち歩くという個性的な男です。
T君と曲を聴かせあう日々は過ぎてゆきました。
その中で私はT君がいかにC君を慕っているか、その才能に心酔しきっているかがわかりました。
私は同じ友人として1対1で向き合っているときに、毎回別の友人へのあこがれを聞かされ、差をつけられているようで正直言って面白くはありませんでした。
さらに時間は過ぎてゆきます。
相変わらず私とT君は互いの曲を聴かせ合っていたのですが、ある日私は気づきました。
T君の曲を聴かせてもらっても「すごい」とは思わなくなったのです。
これは、耳が慣れたからというわけではありません。大学入学当時の私が音楽を知らな過ぎたのです。
そして、出会ってすぐに聴かせてもらった、T君の作品で最もすごいと思った曲は、実はただのシンセサイザーのプリセットで出した波の音で、T君が作り上げたものではなかったのです。完全に私の誤解でした。
ここで注意ですが、正直言って当時私が作っていた曲はT君には及ばず、全然大したことがありません。断言できます。T君の方が実力は上でした。
ですが、音楽を勉強する中で、作曲の腕は上がりませんでしたが耳が肥えてゆき、T君の曲や、彼がおすすめする曲をいいとは感じなくなったのです。
以来、T君の曲を聴かせてもらっても、私はいい感想を言うことはできませんでした。
妙なところでキマジメなのか、うそで「いい曲だね。」とは言いたくありませんでした。
そしてその日がやってきました。
つづく