T君のこと ③

そうして私の大学生活は、作曲、T君、I君、時に(T君曰く天才の)C君とともに過ぎていきました。

余談ですが、T君は酒好きで、ポケットと背中のリュックに酒を持ち歩くという個性的な男です。

 

T君と曲を聴かせあう日々は過ぎてゆきました。

その中で私はT君がいかにC君を慕っているか、その才能に心酔しきっているかがわかりました。

私は同じ友人として1対1で向き合っているときに、毎回別の友人へのあこがれを聞かされ、差をつけられているようで正直言って面白くはありませんでした。

 

さらに時間は過ぎてゆきます。

相変わらず私とT君は互いの曲を聴かせ合っていたのですが、ある日私は気づきました。

 

T君の曲を聴かせてもらっても「すごい」とは思わなくなったのです。

 

これは、耳が慣れたからというわけではありません。大学入学当時の私が音楽を知らな過ぎたのです。

そして、出会ってすぐに聴かせてもらった、T君の作品で最もすごいと思った曲は、実はただのシンセサイザーのプリセットで出した波の音で、T君が作り上げたものではなかったのです。完全に私の誤解でした。

ここで注意ですが、正直言って当時私が作っていた曲はT君には及ばず、全然大したことがありません。断言できます。T君の方が実力は上でした。

 

ですが、音楽を勉強する中で、作曲の腕は上がりませんでしたが耳が肥えてゆき、T君の曲や、彼がおすすめする曲をいいとは感じなくなったのです。

以来、T君の曲を聴かせてもらっても、私はいい感想を言うことはできませんでした。

妙なところでキマジメなのか、うそで「いい曲だね。」とは言いたくありませんでした。

 

そしてその日がやってきました。

 

つづく