矯正歯科の思い出 (後編)

矯正歯科にまつわる話の後編です。

 

前半は以下のとおりで、矯正歯科を紹介してもらった一般歯科に処置をお断りされたところまで書きました。

 

 

 

 

仕方なく私は、その歯科に(よるグーグル検索によって)紹介された、近所の矯正歯科に電話をしました。

無論電話口での私の言葉は「「はふぁひょうふぇいふぅう(歯が矯正器具に)・・・。」です。

 

すると、電話口に出た、おそらく医師本人はめんどくさそうに

「あんたうちの患者さん?違うの?じゃあ見ないよ!」と袖にされました。

 

文章で表現できないのがもどかしいのですが、ちゃんと喋れない私に対するイライラを隠そうともせずシャットアウトされました。

 

懺悔します。

 

そのとき私は後にも先にも人生で一度だけ電話で

「うるさいバカ!」

(正確にはもちろん「うふふぁいふぁふぁ!」です。)

と言ってしまいました。これは私がよくない。

 

私は、通っているところではない矯正歯科による処置も無理なのかと、何度目かの絶望を味わいました。

 

途方に暮れた私は、手鏡を見ながら、持っていたつまようじなどで器具から舌を外そうとしますが全く外れる気配がありません。

そんなことをしていると、舌にはじんわりと血がにじんできます。

 

その時私が考えたのは、「刃物があれば、舌の一部を切り取って外せる」です。

幸い刃物は持っていませんでしたので、その方法は実行することはありませんでした。

その時は焦りと絶望で判断力が鈍っていたので、本当に実行しかねませんでした。

 

時間だけが過ぎます。

 

私は気力を振り絞り、例の歯科よろしく、グーグルマップで別の矯正歯科を見つけ、同じように言葉にならない言葉で用件を告げました。

 

すると受付の方は真摯に聴いてくれそうです。

私は改めて「うまくしゃべれずすみません」と言いつつ状況を告げました。

 

すると受付の方は、「これからいらしてください」と優しくお答えいただきました。

 

感激しました。

感激した気持ちのままその矯正歯科に向かいます。

 

そして、おそらく順番を飛ばしてすぐに見ていただけることになりました。

 

先生は、「あーなるほど。」と言ってあらよっ、という感じで器具から舌を外していただきました。

先生曰く、「静脈の近くだから、ちょっと危なかったですよ。」とのこと。

刃物で舌を切り取ることを考えていた私は肝を冷やしました。

 

そして、私は何度も何度も頭を下げその矯正歯科を後にしました。

 

驚いたことに、なんと無料でした。

最初からここで矯正を受ければよかったとすら思いました。

 

翌日、私の足は自然とデパートの地下に向かいました。

そしてお高めの羊羹を買い、処置をしていただいた矯正歯科に向かいます。

 

そして、「昨日は本当にありがとうございました。よろしかったら皆さんで召し上がってください。」と羊羹をお渡ししつつ改めて感謝の気持ちをお伝えしました。

 

医は仁術、という言葉をかみしめつつも、歯医者さんに甘いものは天敵だったかな、などと思いささやかな幸せに包まれ家路に着きました。