~かつてボクシング世界チャンプを目指し挫折した広岡は、40年ぶりに米国から日本へ戻る。ジムの古い仲間たちと再会し、やがて共同生活をすることになる。そこで出会ったものとは……。どう生きて、どう死ぬのか。人生の豊かさを問いかける傑作小説。~
気づけばなんと、3か月ぶりの読書感想です。
ネタバレがあります。
この3か月、読書自体はずっとしていましたが、取り上げるまでもないものばかりだったというのが実情です。
そして、その3か月前に取り上げたのが「天路の旅人」でしたので、期せずして沢木耕太郎さんの作品が続きます。
さて本作。
前々から読みたかった作品でしたが、先日kindle版がでたということでようやく読むことができました。
感想としては、消化不良、でも、まあまあ、と言ったところでしょうか。
気になった箇所を列挙してみます。
物語は、壮年となったかつてのボクサー仲間が再会、そしてひょんなことから出会った若いボクサーを世界チャンピオンに育てるまでを描いています。
が、その若いボクサーに出会うのは物語の折り返し地点です。
それ以前は、主人公である広岡が二十歳そこそこの女性ヒロイン、佳奈子とある種いちゃいちゃしている描写がほぼずっと続きます。
私は作家の長いファンですが、これはいただけない。
60代半ばの男性と二十歳そこそこの女性がいちゃいちゃするのは無理がありますよ・・・。しかもどちらかと言うと佳奈子の方から広岡にアプローチしています。
私は以前以下の記事で、今作と同じく60代半ばの男性と二十歳そこそこの女性が恋に落ちる描写を酷評しましたが、今作もその危険に陥りかけています。
作家のファンである私ですら、どうしても、壮年を迎えた男性作家の欲望に見えてしまい、私は苦手です。
それに途中で佳奈子が発するセリフの表現、
「それは、ヒ・ミ・ツ」
これは古いですよ・・・。
「それはヒミツです」
で十分です。
また、コーチの一人である藤原が翔吾に、自身の得意技である「インサイド・アッパー」という技を伝授します。ですがこの技は、効果的であるがゆえにあまりに頼りすぎると他の技術がおろそかになるという欠点があります。
それなのになぜ藤原はその欠点を教えなかったのでしょうか。
さらに、主人公である広岡は、作品を通して無欲な人物として描かれているかと思いますが、その広岡が、リゾートホテルを開発するイメージがどうしてもわきません。
これは本作における設定の甘さだと思います。
その他、途中でヒロインの佳奈子に超能力があることがわかったりして、超能力嫌いの私はこれも苦手でした。超能力を交えなくともこの作品はきれいにまとまったはずです。
先述したとおり、物語は折り返し地点に来た時点でようやく本題に入り動き出します。
そこからは、作家お得意の物事に対する深い考察、機微が描かれ、ストーリーもきれいに展開していきます。
「トレーニングというやつは、そこで輝きたいと思っているリングで自由になるためにするんだ」なんてシンプルにして励まされるセリフも光ります。
そして本作のエンディングは、心臓を患った広岡が薬を飲もうとしたところ、その薬を常備するのを忘れて意識が遠くなるところで終わります。
そんなオチはあるでしょうか。
むしろ、心臓が悪い設定は必要だったのでしょうか。
もっとシンプルに、夢破れたボクサーの心理や、無難ですが友情に焦点を当てて進めていくだけで十分だった作品に思います。